
瀬戸内家族
The Family Of Seto Inland Sea
海の向こうにその島影が見えてくると、夏のはじまりをいつも感じてしまう。瀬戸内海に浮かぶ小さな島。妻の実家で夏を過ごすようになってもうすぐ二十年になろうとしている。
島に渡って大きく息を吸い込むと、懐かしい夏の匂いがした。
時代をひとつさかのぼったような風景に、なぜか遠い記憶が呼び覚まされてゆく。
夕暮れの空を舞う赤トンボの群れや、頬を撫でる爽やかな朝の風や、雨上がりのむせ返るような夏草の香りに包まれながら、ぼくら家族は近所のお宮までよく散歩をした。
おーい、今日は大潮じゃけぇ岩牡蠣採りにいこうや。
堤の桜にでっかいカブトムシがおったで。
川にウナギを探しにいかんか。
山で竹を採ってきて竹馬をつくろうや、それが出来たらお昼は流しそうめんじゃ。
子どもたちに日々声をかけてくれるのは、島の自然を知り尽くした妻の父だ。
子どもたちはその声に誘われて、海へ山へと弾かれたように駆け出してゆく。
東京に生まれ育った彼らにとって、自然の生命力に圧倒される島の夏は尽きることのない遊び場だった。
今日も解きかけの夏休みの宿題をテーブルに広げたまま、こちらの目を盗んで虫取り籠に手を伸ばす彼らの姿が視界の隅にちらりと映る。
「勉強が終わってからだぞ」
「お願い、だって蝉やトンボは待ってくれないじゃん!」
そう叫びながら外へ駆け出してゆく子どもたちの背中越しに、夏の陽射しを浴びた八朔の葉が青々と揺れている。
English Statement / The Family Of Seto Inland Sea














